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社会保険の加入手続きを始める前に知っておきたい基礎知識

すべての事業所は、国が定めた保険に加入する義務があります。従来、働き方によっては加入対象でなかった労働者も、2022年10月から段階的に一部のパート・アルバイト労働者に対して社会保険の加入が義務化されました。ただし、加入には週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であることや、月額賃金が8.8万円以上であることなどの条件があります。

本記事では、事業者が社会保険の加入手続きを始める前に知っておきたい基礎知識について説明します。

【事業所】社会保険の加入条件

社会保険の適用の対象となる事業所は適用事業所と呼ばれます。適用事業所の中には、「加入が必須の強制適用事業」と「加入が任意の任意適用事業所」のふたつに分かれます。それぞれの条件や対象について説明します。

強制適用事業所の場合は加入が義務付けられる

社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられている事業所、「加入が必須の強制適用事業所」に該当する条件は、以下のとおりです。

1.常時5人以上の従業員を使用している
(※サービス業、農林漁業などを除く。2022年10月からは法律・会計に関する士業も追加)
2.事業主を含む従業員1人以上の国・地方公共団体・法人の事業所

※2022年10月から適用の対象となる士業は、以下の業種です。
弁護士、沖縄弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、公証人、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、海事代理士、税理士、社会保険労務士、弁理士

引用:「健康保険・厚生年金保険の適用事業所における適用業種(士業)の追加(令和4年10月施行)」(日本年金機構)

任意適用事業所の場合は任意加入となる

「加入が任意の適用事業所」は、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けることで社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入できます。「加入が任意の適用事業所」に該当する条件は、以下のとおりです。

1.常時4人以下の従業員を使用している
2.サービス業、農林漁業を営む個人事業

この場合における従業員とは、厚生年金保険の被保険者となる予定の人を指します。被保険者となる条件は、時期によって一部異なります。

2020年~2024年9月 2024年10月~
勤務時間 週20時間以上 週20時間以上
賃金 8.8万円以上※年106万円以上 8.8万円以上※年106万円以上
雇用期間 2ヶ月以上(見込み) 2ヶ月以上(見込み)
学生 適用除外 適用除外
従業員数 101人以上 51人以上

上記の表から見ると、条件が大きく変わるのが従業員数です。2024年9月までは従業員数が101人以上であるのが、2024年10月からは51人以上に引き下げられます。

引用:「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(日本年金機構)

【事業所】社会保険の加入手続き方法

事業所が社会保険への加入手続きを行う際は、届書の提出が必要です。届書の提出方法は、郵送・窓口持参・オンラインの3つがあります。

窓口持参および郵送の場合は、事業所の所在地を管轄する年金事務所に提出します。登記している所在地と実際に事業を行っている事業所が異なる場合は、実際に事業を行っている事業所の所在地を管轄する年金事務所が提出先になります。

オンラインでの手続き方法は日本年金機構のサイトをご覧ください。

【事業所】社会保険加入に必要な書類と記載方法

社会保険の加入には、一連の手続きが必要です。ここでは、社会保険加入に必要な書類と、書類の記載方法を解説します。

社会保険加入に必要な書類

社会保険加入に必要な種類である届書は、それぞれ提出時にタイミングが異なります。
提出するタイミングは以下のとおりです。

【社会保険加入届書を提出するタイミング】
・健康保険・厚生年金保険新規適用届:事業所を設立し、健康保険・厚生年金の適用を受けようとするとき
・健康保険・厚生年金任意適用申請書・同意書:任意加入の事業所が健康保険・厚生年金の適用を受けようとするとき
・被保険者資格取得届:新たに健康保険・厚生年金保険に加入すべき人が発生したとき
・被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届):被保険者の被扶養者の追加・削除・内容の変更があったとき

届書の提出には、以下の添付書類が必要です。

【社会保険加入届書への添付書類】
・法人事業所:法人登記簿謄本の原本(発行から90日以内)
・国・地方公共団体・法人:法人番号指定通知書のコピー
・個人事業所(強制適用事業所):事業主の世帯全員の住民票(原本)
・任意適用事業所:任意適用申請書、従業員の任意適用同意書、事業主世帯全員の住民票(原本)、公租公課の領収証1年分

社会保険加入に必要な書類の記載方法

社会保険加入に必要な種類の記載方法について解説します。

健康保険・厚生年金保険新規適用届

事業所の種類は、日本年金機構のホームページにある「事業所業態分類表」を参照して記入します。

会社形態のフリガナは、次の略称を使用しましょう。該当しない場合は、略称を使わずに記入します。
・株式会社:「カ」
・有限会社:「ユ」
・合名会社:「メ」
・合資会社:「シ」

事業所の所在地略図が必要になります。インターネットの地図をプリントアウトして貼り付けることも認められています。

健康保険・厚生年金任意適用申請書・同意書

任意適用申請書には、必ず同意書を添付します。新規適用届と同様、事業所区分が必要になるため、事業所業態分類表を確認して記入します。

加入先が健康保険のみ、または厚生年金保険のみの場合は、加入する制度を備考欄への記入することが必要です。

被保険者資格取得届

被保険者資格取得届は、対象となる従業員の個人番号(マイナンバー)や扶養状況など、個人情報の記載が必要です。個人番号を記入した場合、住所の記入は不要になります。

被保険者本人の署名(または押印)は、事業主が被保険者本人に届出の意思を確認したうえで、届書の備考欄に「届出意思確認済み」と記載があれば、被保険者本人の署名または押印を省略(※)できます。

また、電子申請及び電子媒体での届出においても、事業主が被保険者本人の届出の意思を確認したうえで、届書の備考欄に「届出意思確認済み」と記載した場合は委任状を省略(※)できます。

※2019年5月から本人の署名または押印、委任状の省略が可能になりました。

被扶養者(異動)届

被扶養者(異動)届は、健康保険や厚生年金保険に加入する従業員の被扶養者として追加・削除・氏名変更などがあった場合に届け出る書類です。被扶養者(異動)届は、被保険者の被扶養者の個人番号や収入を記入します。

被保険者整理番号欄には、企業が被保険者ごとに割り振った番号の記載が必要です。収入欄には、被保険者の今後1年間の年収見込み額を記載します。

【事業所】社会保険で必要な手続き一覧

ここでは事業者側が関係する社会保険の手続きを紹介します。

事業所に関する社会保険

事業所に関する社会保険は、「労働保険」と「健康保険・厚生年金保険」に分けられます。

労働保険

労働保険には「労災保険」と「雇用保険」のふたつがあります。労災保険と雇用保険を総称したのが「労働保険」です。従業員を雇用するときは加入手続きが必要になります。

労災保険とは、通勤中や仕事中に起きた事故や怪我、あるいは病気などで働けなくなったときの補償を行う保険です。補償は失業手当や休業手当などで支給されます。

健康保険・厚生年金保険

健康保険とは民間労働者の医療保険を指します。労働保険と異なり、従業員とその被扶養者が業務外で起きた事故や怪我、病気のほか、死亡、出産に関する保険給付を行います。

厚生年金保険は、公的年金制度のうち、主として民間企業で働く会社員を対象とした年金制度を指します。保険料の徴収や給付などを行う運営主体は国です。厚生年金保険の給付時期の条件は変わることはあります。とはいえ、原則として労働能力が永久的に喪失した人に対する長期的な給付であることは変わりません。

事業所に関する社会保険手続き

ここでは事業所に関する社会保険(労働保険:労災保険・雇用保険)(健康保険・厚生年金)の手続き方法を紹介します。

労働保険

労働保険に関する届出が必要な場合ごとの届出の種類・提出期限・提出書類は以下のとおりです。

【労災保険】
労災保険を請求するときは、以下の届け出が必要です。
・届出の種類:療養補償給付たる療養の給付請求書・休業補償給付支給請求書
・提出先:病院または労働基準監督署長に提出

【雇用保険】
■労働者を雇用したとき
・届出の種類:雇用保険被保険者資格取得届
・提出期限:被保険者となった月の翌月10日まで
・提出書類:賃金台帳、労働者名簿、タイムカード、他の社会保険の資格取得関係書類、雇用契約書など

■被保険者が離職または死亡したとき
・届出の種類:雇用保険被保険者資格喪失届・雇用保険被保険者離職証明書
・提出期限:被保険者でなくなった日の翌日から起算して10日以内
・提出書類:出勤簿、退職辞令発令書類、労働者名簿、賃金台帳、離職証明書、離職の理由を確認できる書類など

■属する会社はそのままで転勤したとき
・届出の種類:雇用保険被保険者転勤届
・提出期限:転勤の事実があった日の翌日から10日以内
・提出書類:賃金台帳、異動辞令書類、転勤前の事業所に交付された被保険者資格喪失届、氏名変更届

■被保険者の氏名が変わったとき
・届出の種類:雇用保険被保険者氏名変更届
・提出期限:被保険者が氏名を変更した都度
・提出書類:変更した事実を確認できる書類

■高年齢雇用継続給付を受けるとき
・届出の種類:高年齢雇用継続給付支給申請書
・提出期限:支給対象月の初日から起算して4ヵ月以内
・提出書類:賃金台帳、出勤簿、六十歳到達時等賃金証明書、高年齢雇用継続給付受給資格確認票など

■育児休業基本給付金を受けたいとき
・届出の種類:育児休業基本給付金支給申請書
・提出期限:安定所から指定された日等
・提出書類:賃金台帳、出勤簿

■育児休業を開始したとき
・届出の種類:休業開始時賃金月額証明書・育児休業給付受給資格確認票・育児休業基本給付金支給申請書
・提出期限:育児休業を開始した日の翌日から10日以内
・提出書類:賃金台帳、出勤簿、労働者名簿、母子手帳 など

■育児休業者職場復帰給付金を受けるとき
・届出の種類:育児休業者職場復帰給付金支給申請書
・提出期限:育児休業終了後6ヵ月を経過した日の翌日から2ヵ月を経過する月の末日まで
・提出書類:なし

■介護休業を開始したとき
・届出の種類:休業開始時賃金月額証明書・介護
・提出期限:介護休業を開始した日の翌日から10日以内日まで
・提出書類:賃金台帳、出勤簿、労働者名簿

■介護休業給付金を受けるとき
・届出の種類:介護休業給付金支給申請書
・提出期限:安定所から指定された日等
・提出書類:賃金台帳、出勤簿、介護休業申出書、介護対象となる家族の氏名と続柄、住民票記載事項証明書等の写し

健康保険・厚生年金保険

従業員を採用するときは、健康保険・厚生年金保険の届出が必要になります。届け出の種類・提出期限・提出書類は以下のとおりです。

・届け出の種類:健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
・提出期限:採用してから5日以内
・提出書類:雇用保険被保険者証、年金手帳など

まとめ

社会保険の手続きは人事担当者にとって大変な仕事であり、新卒採用はともかく中途社員の入社や社員の退職など毎月発生することも多く、そのたびに事務手続きが増加し、かなりの負担となります。

さらに社会保険の法改正は頻繁にあり、知識やキャッチアップも大変です。

知識を身に着けつつ、計画通りに手続きを進められることが理想ではありますが、思い切って社会保険労務士に依頼するのもひとつの手段です。

期日が決まっている業務ゆえ、社会保険の手続きをスムーズに進めるためには、社内体制と外部への委託の効果を見極めて計画的に進めることが重要です。

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